<< main >>
絶海の孤島で見つけた友だち 〜ロビンソン・クルーソー(1)〜
 広い世界に憧れて船乗りになり、念願の航海で暴風雨に巻き込まれて船が難破し、無人島に流れついたロビンソン・クルーソーの冒険物語に、胸ときめかした幼い日の思い出を持っている人は多いことだろう。子ども用に翻訳された冒険物語を読んで、日本人は、どのように理解し、何を記憶に留めているだろうか。

300年を経て、なお新鮮な小説

Robinson_Crusoe_1_1.jpg 1719 年、日本では徳川幕府八代将軍に吉宗が就任(1716 年)し、享保の改革が軌道に乗った頃、またその少し前、1702 年には、松尾芭蕉の紀行文集「奥の細道」が発刊された歴史の 彼方、今から300 年も昔、この大ロマン小説は発刊された。ジャーナリストとして知られていたダニエル・デフォーが、「ロビンソン・クルーソーの生涯と、奇しくも驚くべき冒険」という題をつけて、27年余の無人島生活を自分自身の体験として発表した。これが三部作のうち最も有名な第一作で、通常「ロビンソン・クルーソー漂流記」として知られている。第二作「ロビンソン・クルーソーのさらなる冒険」を読む人は少なく、第三作「ロビンソン・クルーソーの反省録」に至っては、通常の図書館には所蔵されてさえいないので、手に入れるのに少し手間暇を要する。
「ロビンソン・クルーソー漂流記」は、一般的には子どものための物語だと思われている。筆者も小学4 年生の頃、「少年少女世界文学全集」で読んで以来、原作をそのまま翻訳した作品を読んだことはなかった。

Robinson_Crusoe_1_2.jpg 今回、ロビンソン・クルーソーを取り上げることにしたのは、第一に、土着の食人種間の戦いに捕虜 となり、危うく食べられる寸前であったフライデーの命を助けた後の、二人の人間関係に焦点を当てて考えてみたかったことである。土着民を初めから見下していたクルーソーの人間観・差別意識に以前から違和感を抱いていたので、今回大人として、またクリスチャンの視点で考え直してみたかったのである。
第二に、27 年間にも及ぶ無人島での生活を、精神に異常を来さずに堪えることが出来たことに関して、何故・どのようにしてという疑問があり、クルーソーの人間像、特に死生観・世界観について、作者がどのように描いているかを考察したかったのである。

筆者の記憶の中の漂流記あらすじ

 「中流階級の安定した人生を」という両親の勧めを振り切って航海に飛び出し、船が難破した。乗組員は全滅し、ロビンソン・クルーソーただ一人が無人島に打ち上げられ、九死に一生を得た。

Robinson_Crusoe_1_3.jpg 難破し見捨てた船が島近くへ流されてきたので、を作って船に出向き、様々なものを入手した。火薬や鉄砲、大工道具、筆記用具、羅針盤、望遠鏡、海図、それに航海術の本などを見つけた。また、食料や衣類など、通常船に備えられているような様々なものを手に入れた。こうして、人間が誰もいない中で生き延びるための戦いが始まる。
クルーソーは、「1659年9 月30 日、この浜に私は上陸した」と大きな柱の上にナイフで彫り付け、それを十字架の形にして、最初に上陸した海岸に立てた。この四角い柱の側面に、毎日ナイフで刻み目を付け、そして7 番目(日曜)の刻み目は他のものより長くするなどの工夫をして、カレンダーを刻み、週と、月と、年の経過を計算した。

Robinson_Crusoe_1_4.jpg 最低限の衣食住を確保することは急務であり、サバイバルのためのまじい戦いが始まった。洞穴を作り、テントを張って住む場を確保し、山羊を鉄砲でったり、海辺の亀を捕まえたりして食糧を手に入れた。船から持ってきた穀類が、土に根を張り芽を出したので、 ( ) を作って土を耕し、収穫を狙うウサギや鳥を追い払ったり、土器を焼いたり、また乾葡萄  や、パンまで作ったりした。



Robinson_Crusoe_1_5.jpg 大きな丸木舟を作り、島の中だけではなく、海の上から島の周囲を探検して回った。また、試行錯誤()して山羊を生け捕りにして牧場を作った。すべて一人で少しずつ、苦労しながら誰にも邪魔されずに、自分だけの世界を作り上げていった。

 この無人島は、蛮人たちが捕虜を殺して食べる祝宴が行われる場になっていることをクルーソーは発見して、戦々恐々とする日々が続いた。そんなある日、殺されそうになった捕虜が逃げ出して、見張っていたクルーソーの目の前にやってきたので、追っ手を討って、この捕虜を助けた。



Robinson_Crusoe_1_6.jpg クルーソーは、彼を助けた日が金曜日だったので、「フライデー」と名付けて従僕にした。フライデーは命を助けられたので、ロビンソン・クルーソーに絶大な感謝を捧げ、死ぬまで忠節を尽くすと誓った。クルーソーは文明人の生活様式や英語を教えて、自分を「マスター」(ご主人様)と呼ぶように教えた。

 そして、そして、・・・・実に様々なことがあった後に、イギリスの船との出会いがあり、クルーソーは無事に故国に帰り着いた。

漂流記の素材となった実在人物

 スコットランドの水夫、アレキサンダー・セルカークは、無人島・ファン・フェルナンデス諸島に取り残されて4 年4 ヶ月間を過ごした。彼が持っていたのは銃、火薬、大工道具、ナイフ、聖書と衣服だけであった。島には野生化した山羊の群れがいて、肉も乳も食料となった。野生の蕪(かぶら)、キャベツ、胡椒()の実も食用となった。野生化した猫を飼い慣らして一緒に暮らした。自分の感情を良い状態に保ち、また英語を忘れずにいる上で有益だと思い、しばしば聖書を拾い読みした。

 この彼の無人島生活が、ロビンソン・クルーソー漂流記の素材になったのではないかと推測されており、1966年1 月1日、セルカークが滞在した島は、公式にロビンソン・クルーソー島と改称された。

生き延びるためのクルーソーの戦い

 普通は、300 年どころか、30 年前の小説でも時代を感じさせられるものである。それなのに、何故、「ロビンソン・クルーソー」にはそれを全く感じさせない新鮮さがあるのだろう。一つには、いくら時代が過ぎても、無人島に漂着すれば、生き延びるためには原始的な方策しかないということがあるだろう。

Robinson_Crusoe_1_7.jpg 彼は星や太陽を観測して、緯度や、日時を推測している。彼は船乗りだったから出来たのであって、普通の人には出来ないだろう。筏を組んで難破船にまで辿()り着いて、船の中の物資を運び出したが、これもそんなに簡単なことではない。持ってきた布を使って帆を作り、それを操って筏を動かし、ハンモックを作ったり、着る物、帽子、傘、履物を作ったりした。
住むためにテントを作り、いるかも知れない野獣に襲われないように洞穴を工夫したり、柵で囲いを作るなど、必要に応じて知識と知恵が湧いて出てくるという感じである。手に入ったコンパスを使いこなし、十字架の形に作った板切れに、日を刻んでカレンダーを作った。
畑を耕すための鋤を作り、小麦を実らせ収穫するという一連の作業は農夫以上の技術を要する。収穫した小麦からパンを作り、水を入れるための土器を作るなど、まさしく自給自足の生活を難なくやってのける有能な人物である。次々と問題が起こるが、日記を付ける律儀さを見せ、様々な失敗もするものの、その都度解決して概ねすべてをやってのけている。

 27 歳の青年時代から約27 年ほど孤島で暮らし、初老、54 歳ぐらいに故国に帰ったということで、孤島という過酷で文明とはほど遠い環境に住みながら、年齢による体力の衰えや健康上に支障が生じたりしていない。島に上陸して少し経った頃、海ガメを食べた後に体調を崩して寝込んだという話が一回出てくるだけである。

 この冒険小説は、非常に具体的で新鮮みがあり、そして、現在文明の利器に囲まれて生きている私たちには、彼が仕遂げたそのうちの一つでも、出来ないのではないかと思わせるところが、奇妙に魅力的である。無人島で生き延びるすべを、自立して生きるすべを現代人は失っているかも知れない。そして、無事に生き延びて帰っても、社会復帰は相当困難だろう。(*注:日本の敗戦を知らず、グアム島で一人生き残っていた横井庄一さんが1972 年( 戦後26 年半) 発見され、帰国した出来事を覚えている人もおられるだろう。)

 また、27 年も孤島で暮らしていたのに、彼は帰国後、善良な友人や幸運に恵まれ財産を得て悠々自適の生活を再開し、しかも結婚して子供にも恵まれている。この54歳のロビンソンは、老齢による衰えを全然感じさせない。どころか、また懲りずにどこかに旅に出た。その続編をいずれ書くという予告をしてこの小説は終わっている。

孤島で見つけた友だち、慰め

 孤島での27 年間を支えた物質的な側面を、作者は工夫して綿密に描いており、その一端を垣間見てきた。さて、人間が完全な孤独にどれくらい耐えられるのか分からないが、デフォーは限界はそんなに高くないとみなした。それで、クルーソーに次々と解決すべき簡単な演習問題を与えると同時に、心を慰める様々な「友だち」を与えるという心憎いばかりの演出をしている。

 クルーソーは、流れついた島を当初、「『絶望の島』と呼ぶことにした」と日記に記している。それが、日を追うにつれ、様々に変化していくのである。
船で見つけたペンやインクがどれくらい心に慰めを与えたかは不明であるが、律儀に日記を記しているということは、相当な慰めを与えるものであっただろう。また、聖書を3 冊発見しているが、無人島で生活することを余儀なくされていたこともあり、クルーソーを生ぬるい信者の状態から抜け出させ、自立した信仰者、一人前のキリスト者へと成長させるための一助となった。この点については、次号にて詳細に紹介する。
Robinson_Crusoe_1_8.jpg クルーソーの大切な友だちになったのは、船に乗せられていた一匹の犬と二匹の猫で、嵐の中を生き延びていて、筏で辿り着いたクルーソーを出迎えてくれた。犬は、自分で船から海へ飛び降りて、泳いでクルーソーの所へやって来た。その後何年も忠実なしもべとなったが、クルーソーは犬に何か用を果たさせるつもりはなかった。唯一望んだことは、犬が話しかけてくれることだったが、「それは無理というものであろう」と、クルーソーは日記に記している。

 クルーソーは島の北西部へ旅をして、気持ちよく広々と開けた草原は草花で飾られ、とても美しい木々に満ちあふれていることを発見した。そこに沢山いた若いオウムを一羽、棒で叩き落として息を吹き返したところを家へと連れ帰った。クルーソーはこのオウムに言葉を教え込んで、ポルと名前を付け、大切な家族の一員に加えた。
Robinson_Crusoe_1_9.jpg クルーソーがくたびれ果てて眠っていると、ポルはクルーソーの顔にくちばしを近づけ、「哀れなロビン・クルーソー! お前はどこにいるのだ?どこへ行っていたのだ?どうしてここへ来たのだ?」と、教えた通り話したりした。
こうして、クルーソーはこの孤島に辿り着いて2 年の間に、楽しい我が家を形成することが出来たのである。

 孤島での独りぼっちの生活は、こうして実に25 年目に入って、作者はフライデーとの出会いという素晴らしい演出をしてのけた。救出直後、フライデーが最初に何か話しかけた時、クルーソーにはそれを理解することはできなかったが、その声はクルーソーの耳にとても心地よく響いた。というのもそれは自分自身の声を除けば、この25年間で耳にした最初の人間の声だったからであると、デフォーは描写している。嬉しいという表現では伝えきれない激しい感情の躍動は、このようにしか表現できなかったということだろう。

ロビンソン・クルーソー漂流記の主題

 今回、子ども用ではなく、原著を翻訳した作品を読んで、びっくり仰天、青天の霹靂()の思いを味わうことになった。クルーソーがクリスチャンであることがしっかり描かれていることなど記憶の片隅にさえ留まっていない。昔、読んだのは幼い小学生時代であったことを割り引くとしても、書かれていることを全く読めていなかったことを発見して愕然()としたのである。
 次回、彼の霊的、精神的内面、孤島でどのようにクルーソーが成長していったか、デフォーが極めて巧妙に小説という描き方をしながら、自叙伝として本当に意図したことを探りたいと思う。
 

(ご案内)この投稿内容は、CR誌38号クリエーション・リサーチ・ジャパン)に連載したものです。
21:21 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark
Comment








Trackback

講演依頼&お問合せ

公式サイト案内

講演情報_バナー

ご案内


skype_seminar_sidebuner4-e1357803993569.png




christmas_1.jpg
安藤和子 文 / 神谷直子 絵
800円(定価)

カテゴリー

最近の記事

過去の記事

安藤和子の紹介

Comment

  • ノアの洪水の史実について学ぶ:加古川バプテスト教会において
    Yukimichi Okabe (11/06)
  • STAP細胞 (16) 笹井芳樹理研副センター長自殺! 自分自身を赦せなかったのだろうか?
    吉村友喜 (08/07)
  • STAP細胞 (16) 笹井芳樹理研副センター長自殺! 自分自身を赦せなかったのだろうか?
    tera (08/06)
  • 老人には時速5kmで踏切を渡りきれない! / 踏切も交差点も若者対象の設定
    頭の悪いおぢさん (05/11)
  • STAP細胞 (9): 後出しジャンケンで 「グー・チョキ・パー」 全部を出した指導者
    武田照子 (04/19)
  • STAP細胞 (6) 関係する記事を公式ホームページに公開
    田口哲夫 (04/10)
  • STAP細胞 (3) 著者/共同研究者たちの責任・他施設の専門家たち
    やすだ (04/03)
  • STAP細胞 (2) 関係者たちの理解し難い対応・著者たち、他施設の専門家たち
    杉森 経弘 (03/19)
  • 盗んだ人、盗まれた人
    ソープ (07/25)
  • 盗んだ人、盗まれた人
    Yasuhisa Hamada (07/25)

Link

Search

Feed

Mobile

qrcode 無料ブログ作成サービス JUGEM