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美空ひばりに見る「プロ根性」・・・・・・日本人が失いつつあるもの
没後25年、四半世紀を経て今なおテレビでしばしばその歌声を響かせる一人の歌手がいる。このように書けば、多くの人はその人の名前を思い起こす位有名な歌手「美空ひばり」である。彼女のファンはこれだけの時間が経っても減らないようで、彼女だけを取り上げた歌や思い出などの各種番組を組んでもかなり視聴率を稼げるからこそ、企画・放映されるのであろうと思う。

彼女の音楽の才能、歌唱力、超人的な音域の広さ、技量、歌謡曲だけでなく様々な音楽ジャンルを見事に歌いこなし、洋楽も、オペラも、浪曲も何でも 我が物として歌いこなすようである。音楽の才能だけではなく役者としても一流であったようであり、それが効果的に生かされた故かどうか、彼女の歌には物語性があり、浅く深く広く、美しい裏声の高音と、喉が震える低音と縦横無尽に声とリズムと流れが織りなして物語を綴っていき、聴く人の心に深く突き刺さる。彼女に与えられた天賦の才は多方面に爆発し、活躍の舞台を広げたようである。天才はしばしば極めつきの自己中心・利己主義で、周囲にいる人の姿が見えないために世の中の秩序を無視する振る舞いをすることがあるが、彼女もその類いの人間であったようである。世の流れ・動きを察知できなかったのではないかと思わせられる数々のエピソードがあるようである。

2年位前であろうか、ある非常に真面目で、真摯な取り組みをしている団体の機関誌の記事として、筆者は美空ひばりを取り上げた。彼女のことをそんなによく知っているわけではないが、それでも彼女の歌声には魅了されていたし、非凡な音楽の才能には感服していたが、しかし、その音楽の才能や実力について書こうとしたわけではない。最近、プロ根性というか、職業人としての意識の欠如した人々、各種職種に於いてその任務にあることを忘れているのではないかと思わせられる無責任な人々が多くなってきている社会の趨勢にうんざりしていたので、執念と言うほどの彼女の「プロ根性」を紹介したいと思ったのである。

しかしながら、真面目で真摯な生き方をしている人々には、眉をひそめたくなる彼女の生き様だけが大問題であるようで、歌の巧拙とは関係なくひんしゅくを買ってボツになってしまった。ついでに言うと、筆者も又、彼女のふしだらとも思えるほどの様々な行動を肯定していたわけではない。

筆者は昔々、美空ひばりという歌手がデビューして割に直後からの静かなファンであった。静かなという意味は、彼女のコンサートに出かけたこともなければ、レコードやCDなど買ったこともなく、ただの一枚も持っていない。ラジオやテレビなどでしばしば放送されたのであろうが、番組表を調べてまで聴くわけではなく、たまたま聴く程度であるから、こんな人間をファンというのは申し訳ないだろう。しかし、たまたま聴く程度であるにしても彼女の歌の相当数を知っており、好きである。

彼女の歌に魅了されたのは、美空ひばりとしてデビューしてそんなに間のない頃で、彼女はまだ子どもであった。日本がまだ戦後の混乱期で、人々が生きる気力を失い荒みきっていたときに、一九三七年生まれの彼女は近所で歌声を披露し拍手を浴び、そして、十一〜二歳で公にデビューしたようである。当時はもとよりテレビなどはなく、音質の悪いラジオから聞こえてくる子どもらしくない歌声に大きな感銘を受けた。燕尾服の写真は1949年「悲しき口笛」を歌っている姿、もう一枚のベレー帽姿は1950年「東京キッド」の衣装姿で、いずれもWikipediaからである。

その後、世の中が大きく変動し美空ひばりは歌謡界の女王として君臨することになり、NHKの年末歌謡コンサートの主役となった。NHKを始め各放送局、レコード会社、映画会社などのドル箱となり、業界の取り巻きは彼女を女王としてたてまつり、したい放題にさせて目に余る様々な傍若無人な振る舞いは放置された。暴力団と関わり、そして遂に弟の刑事事件という極めつきの出来事が起こり、彼女を干し上げようとするマイナスの力が一挙に働いて、方々の公会堂から閉め出され、NHKは年末の歌謡曲コンサートからも閉め出されてマスコミを賑わせた。
この事件の最中に筆者はアメリカにいてアメリカ人とのお喋りの話題になったとき、彼らの反応は「歌手自身が犯罪の当事者ならともかくとして、そうでないなら、関係ないじゃないか」と、人間性と歌手としての働きを分けて考えたのが印象的であった。

この逆境を彼女が如何にして乗り越えたか? もとより彼女の実力が土台ではあるが、その実力は生来の賜物が激しい情熱と、執念としか言いようのない厳しい努力を積み重ねて磨き上げられたものである。彼t女の精進ぶりを間近で見ていた人々が異口同音に証言していることは、プロとしての根性の凄まじさである。「美空ひばり」という芸名を名乗っているときには、私人としての立場を完全に葬り去って行動するという。そして、ファンのために自分を犠牲にして磨き、「演技し尽くして」生きていたという。

その彼女の努力の結果積み上げられた結晶だけがファンや外部の人間に見えていたのである。音楽の天才であらゆるジャンルの音楽を見事にこなす実力者誰にも追随を許さない驚異的歌唱力、舞台でも映画でも歌って演技をする八面六臂の活躍をする一方で、自分勝手で我が儘な、傲慢・不遜・不作法で人を人とも思わない傍若無人な非常識な人間として、まさに鼻持ちならない天才の姿である。そして、褒めちぎる人がいる一方で、様々な非難中傷に曝されて生涯を生きたようである。

舞台でもその他の折々に触れても、一般のファンにはエンターテイナーとしてのサービスを惜しまなかったそうであるが、ある意味でそれは当たり前のこととして受けとめられていたようである。彼女の凄まじいばかりの根性が一般の人々の目に映ったのは、病魔に冒された後の涙ぐましい奮闘ぶりを通してであった。激しい痛み、苦しみを堪え忍んででも、最後まで「美空ひばり」というブランドを守り通そうとする執念が、痛々しいほどにファンの目にも映ったようである。

普通の礼儀正しい人間であるべきだという倫理的側面から非難されている彼女が、一方では平和志向、戦争反対の願いを様々な形で行動に移していた。「一本の鉛筆」と「八月五日の夜だった」(共に松山善三作詞)という二曲は、いずれも広島への原爆投下について描かれた作品である。

一本の鉛筆があれば 戦争はいやだと私は書く・・・(中略)・・・
一本の鉛筆があれば 八月六日の朝と書く / 一本の鉛筆があれば 人間のいのちと私は書く

「第1回広島平和音楽祭」のリハーサルでは、ひばりを冷房付きの部屋に誘導したところ、「広島の人たちはもっと暑かったはずよね」とつぶやき、猛暑のステージのかたわらにずっといたという。ステージの上からは「幼かった私にもあの戦争の恐ろしさを忘れることが出来ません」と観客に語りかけた。彼女のこの思いやりと、伝えられる傲慢とはどうも相容れない人物像ではあるが、親しい人への我が儘と、プロ根性とは一人の人間の中で矛盾しないで同居できたのであろう。

それから14年後の1988年「第15回広島平和音楽祭」に美空ひばりは再度出演したが、当時、大腿骨骨頭壊死と慢性肝炎で入院した翌年であり、歩くのがやっとで段差を一人で上ることさえ困難な状況だったという。出番以外の時は音楽祭の楽屋に運び込まれていたベッドで点滴を受けていた。しかし、観客の前では笑顔を絶やさず、ステージを降りたときには「来て良かった」と語ったという。翌1989年6月に美空ひばりは死去した。

52歳という若さで生涯を終えた彼女に、死後、国民栄誉賞が与えられた。国民栄誉賞が最初に与えられたのは、野球選手・王貞治氏であったと思うが、その後、時の政府や首相などの人気取りだとか様々な思惑やら疑念が飛び交っているが、それはさておいて、取り敢えずはファン以外の人々にもある程度の評価を受けたということだろうか?








 
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