かつて夏目漱石は「とかくこの世は生きにくい」と嘆いたが、今の世の中はあの時代より、もっともっと生きにくいかも知れない。大人だけでなく、将来のある若者が、子供たちまで悩んで、そして簡単に命を投げ捨てる。心ある人々は、このように生きあぐねている人々に何とか救いの手を差し伸べたいと知恵を絞って手を差し伸べる。
その様な目的で多くの本が書かれるが、それが必要な人々に届かないのが残念である。ともあれ、今、悩んでいる人々に光と勇気と慰めを与える本を一冊紹介したいと思う。
この間、東京で開かれたセミナーで久しぶりに著者今中先生にお会いして、標題の近刊エッセー(いのちのことば社)を頂いた。「つらいとき 不安なとき立ち上がる力」「健康より大切なものがある」そして、帯封に「健康の課題に直面している方、何を食べようか何を飲もうかと思い悩む方に知ってほしい!」と訴えている。本の見開きの裏に、素晴らしい一言が添えられていた。
多くのことを教えてくれた 忘れえぬ患者さんたちへ
医者としての彼の優しさが滲み出ている一言だと思う。
著者、今中和人医学博士は、現役の心臓外科医である。臨床医であるから体が傷ついている患者の手当をしているのであるが、体の健康を損ねると大概の場合、心も病むことが多い。その時に、手当をしてくれている医者をどの程度信頼して良いのか、大抵分からない。心から信頼できる医者を探し当てた幸せな人は少ない。医学的な知識、知恵は確かか、腕は確かか、まともな人間性を持っていて医療行為を行っているかどうか・・・・今の時代、病気になったら一般庶民は不安だらけである。
帰りの新幹線で読み始めて、時間の経つのを忘れるほど引き込まれた。
「3時間待って、3分診療」と悪口を言われるほど、実は医療現場自身が、そして医者や看護師たちなど医療に携わる人々が病んでいる。医者は患者の顔を滅多に見ないでパソコンばかり眺め、カルテに記入することに精力を注ぐ。たまに患者と会話すると、患者の言うことを聞かないで自分の意見を押しつける。だから、多少体調が悪くても、素人判断以上のことを医者がしてくれる期待が薄く、ついつい病院から足が遠ざかる。そして、怪しげな民間療法が世の中でもてはやされ、サプリメント信仰が大流行で、それで大儲けをする企業がのさばっている。
さて、この書物、読み進むうちに、自分が病気をしたら彼に頼りたいと思った・・・とは言っても、彼は心臓外科医であり、手術を受けなければならないほどの心臓病にはなりたくはないが・・・・。患者を医者である自分と同じ赤い血の通う人間であり、上から目線ではなく生きた人間として対峙してくれる彼のような医者に自分の病を任せることが出来たらどんなに幸せだろう。
医者の視点から、まさしく標題の通り、体の治療ではなく、体の健康を損ねると心も弱くなっていることを本当に理解して、体と心を一体として、人間として付き合って手を差し伸べようとする医者の本音がじわじわと伝わってくる本である。
今健康を損ねている人も、今は健康である人も、心ある一人の医者の温かい心に触れてほしいと思う。
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